立ちね
その男は扉の近くに立っていた。
かなり酔っ払っているようで、
立ちながら寝ていた。
扉によっかかったり揺れたりするので、
みんな迷惑そうに避けていた。
彼女は吊り輪につかまっていたが、
嫌だなあと思っていると男はだんだん
と近づいてきた。
ついに寄りかかってきたそうだ。
思わず、えいっと突き飛ばしてしまった。
そんなに思い切りではない。
その男は反対のほうへ傾いた。
すると、また、振り子のようにこちらに
寄りかかってこようとしていたのを見て、
彼女はつり革から離れた。
寄りかかるものをなくして、
その男は座っている年配のおじさんの上に、
倒れ掛かってしまった。
「しっかり起きろグリーン車でも乗れ、迷惑だ」
おじさんは大きな声でどなった。
男はびくっとして、一瞬起きたが、
すぐにまたつり革につかまって寝てしまった。
やれやれ、と思って彼女が目をそらした瞬間、
どーんという音がした。
慌てて音の方に目をやると、
その男がおでこを押さえてうずくまっていた。
座席の端の鉄の棒に思い切り頭をぶつけたようだ。
あまりの痛さにさすがに男は目をさまして、
おでこをさすっていた。
怒りを誰かにぶつけようにもぶつける相手がいなかった。
不機嫌な顔をしていたそうだ。
だけど、彼女は言った。
ちょっとしたら、また立ちねを始めたのよ。
あきれたわ。
どうしたらあんなに眠くなるのだろう。


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